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    日本郵政の株式上場について。

     昨年暮れに日本郵政の西室泰三社長が記者会見して、郵政の株式売却について方針を述べ、親子関係にある3つの会社を同時上場するという前例のない上場を行うことを明らかにした。親会社である日本郵政の上場は既に決まっており、政府は東日本大震災の復興財源に株式売却益を充てると言っている。日本郵政の株式については改正郵政民営化法でも元の郵政民営化法でも3分の1は政府保有のまま残すが、3分の2は市場で売却することになっているので既定路線ではあるが、子会社である金融2社、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式売却まで同時に行うとはずいぶん思い切った決断だと受け止めている人が多いと思う。

     株式の保有のあり方については、改正民営化法の第七条一項で日本郵政、二項で金融2社について規定している。金融2社の株式については「その全部を処分することを目指し」と書かれている。「目指し」と書いてあっても「すべてを処分する」ことは法律でハッキリしている。更に但し書きというか条件のようなものが付いており、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の「経営状況とユニバーサルサービス責務の履行への影響等を勘案しつつ、できる限り早期に処分するものとする」となっている。西室社長は金融2社の株式の50%まで段階的にできるだけ早く処分し、そこで一呼吸置いて3社の一体性が維持されているのかどうかなど、経営状況をよく見た上で次の段階に移ると言っている。

     郵政三事業はもともと郵貯、簡保の収益で郵便事業を支えている構造になっている。これは国営時代そして事業庁、公社の時代から何ら体質は変わっていない。全国均一料金であまねく公平にサービスを提供している郵便事業はどうしても黒字を生み出す地域は少ない。赤字体質になってしまうのを貯金、保険の黒字で補って、税金の投入は一切せずにうまく運営してきた。日本郵便が不動産事業をはじめとして、新たな収益を生み出す事業を次々展開して大きな黒字を生み出す会社に変わっていけば別だが、その見通しはまだついていないと言わざるを得ない状況である。従って日本郵政の株式価値を維持するのは、金融2社の持っている収益性にあるわけだが、金融2社の株式を同時上場してどんどん売っていくことになると、それに伴って日本郵政の企業価値や株式価値が落ちてくるのは一目瞭然である。

     本来、金融2社の株式の売却については、政府の政治判断ではなく株主である日本郵政の経営者の判断に委ねられているのである。従って虎の子である金融2社の株式売却益は当然のことながら、日本郵政グループの企業価値と株式価値を向上させていく為に使うべきだろう。ところが西室社長が記者会見で述べられていることによると、当面の資金需要には手持ち資金で対応できるという。そうだとすれば何も今、日本郵政として金融2社の株式を売り急ぐ必然性はない。それにも関わらず法律に書いてあるからと売り急ぐのは他に狙いがあるとしか思えない。それは何かと考えてみると、西室社長が3社同時上場を発表した記者会見の最後に「アベノミクスを成功させなくてはいけない。アベノミクスをバックアップする為にやるのだ。」という趣旨の発言をされていたが、それが目的なのかと疑わざるを得ない。

     アベノミクスなるものは第一の矢と第二の矢が放たれ、大胆な金融緩和と思い切った財政出動は既に実行されている。しかし一番大事だと言われている第三の矢、成長戦略に基づく具体的な政策が未だに出てこない。農協改革などが成長戦略の一環だとも言っているが、果たして経済成長をもたらすインパクトになるのかというと、必ずしもそうは思わない。今のアベノミクスは株高と円安の2つによって辛うじて維持されている。成功したと一部で言われているが、円安と株高によって恩恵を受けている人達は一部の輸出大企業と富裕層だけである。その人達は円安と株高が維持される限りアベノミクスを支持するだろう。しかしそれが思うようにいかなくなって、逆に円高が進み、株価が下がってくるとアベノミクスを成功したとは言わなくなる。だから何としても株高を維持しなくてはいけないのであろう。

     日本郵政の株式上場はNTT株上場以来の大型企業の上場であり、当然市場は高い関心を持っている。主幹事証券会社が株主である財務省と会社の幹部とも相談をしながら、今年の後半に上場しようと準備を進めている。初値がどれくらいになるのかを皆が注視しているが、初値がついた後株価がどんどん上がっていけばいいが、下がっていったら財務省も当て込んでいた売却益が得られず困ることになろう。また内閣としてもアベノミクスの成否に関わることであり、何としても高値を目指していかなくてはならない。ところが冷静に考えてみて、金融2社は十分な収益性を持ち、十分過ぎる金融資産を持っている会社だから、その会社の株式を買いたいという人はたくさんいる。株式価値が向上していくことも十分見込めるであろう。その一方で金融2社の収益力が日本郵政を支えている構造が変わらない中で、金融2社の株式がどんどん売られていけば、当然株式を所有する新しい株主の意見は強まっていく。日本郵政が責務を負っている郵便と金融のユニバーサルサービスは、日本郵政が金融2社をコントロールできる力を持っていて初めて可能になるのであって、金融2社の株式の売却が進むにつれその力が弱くなっていくと、ユニバーサルサービスの責務を果たすことも非常に難しくなってくる。金融2社の株式が売られていくことによって、日本郵政の株式価値も企業価値も下がってくることになる。新たに大きな収益を見いだす道もまだ見つかっていない。将来の不安ばかりがあるような企業の株式は常識からしても売れない。市場での値が下がってくるという悲観的な見通しがあるとすれば、どこかに買い手を作らなくてはいけない。絶対に買ってくれるところを作らなくてはいけないということから、日本郵政そのものに自己株式を買わせることにしたのではなかろうか。これはタコが自分の足を食うようなもので、買い手が付かないような日本郵政の自己株式を、優良子会社の株式を売って買うというのだから経営者としてはずいぶんおかしなことをやるわけだが、それをやってくれないと幹事証券会社も困るし、財務省も困る。内閣としてもアベノミクスを成功していると言わざるを得ないから、そういうことを考えたのだろう。しかしながら、私は今日本郵政がやるべきことは、金融2社の株式を売り急ぐことではなく、自社の企業価値、株式価値を向上させていく為に、具体的にこれから何をやるのかを明確に示すことだと思う。つい先日、豪州の物流会社を6,200億円という巨額を投じて買収すると発表したが、一般的に考えればまずは業務提携から始めて国際的な事業展開をやりながら、それがうまくいくようであればその会社を買収するというのが常識的なやり方だと思う。これも先に買うことを決め、巨額の投資をするわけで、こういうことが日本郵便の収益性を高めることにどうつながっていくのかが全くわからない。

     郵便局ネットワークの最前線で頑張っている局長さん達にすれば、地域の利用者が何を求めているかが一番よくわかっている。利用者は郵便のサービスだけを求めているのではなく、金融サービスも全国すべての郵便局で引き続き提供してほしいと願っている。今後、金融2社がすべての郵便局に対して金融サービスを委託し続けていくというのなら安心だが、そういうことは民間の企業経営者として確約できるはずはない。損をすることがわかっているようなことをやれば経営者として背任にも問われる。利益を生み出さないことがわかっているような仕事はできないのが当然である。金融ユニバーサルサービスを法律で義務付けることがあれば別だが、ゆうちょ銀行もかんぽ生命も民営会社なのだから、損をしてまでも公的責任を果たせと法律で規定することは不可能である。だから株式の3分の1は政府が最後まで持ち続けることになっている親会社の日本郵政に対して、ユニバーサルサービスの責務を負わせるということを法律で規定しているのである。そのユニバーサルサービスを永続的に実行していく担保になるのは何なのかというと、金融2社に対してコントロールできる力を日本郵政が持ち続けることである。それには株式の所有以外にない。金融2社の株式のギリギリ49%までは売っても51%は日本郵政が持ち続けることにならない限り、日本郵政本体に義務付けているユニバーサルサービスの責務は絵に描いた餅のようなことになってしまう。

     現在、金融2社は日本郵便に委託手数料を支払って全国の郵便局で金融サービスを提供しているが、今後不採算の郵便局が増えてくれば手数料を上回る収益を得ることは難しくなってくる。その時には手数料を引き下げてもらうか、収益性の高い郵便局を選別して委託するか、あるいは親会社の日本郵政の負担によって継続するかの判断を迫られることになる。従って金融のユニバーサルサービスを全郵便局で提供する為には、日本郵政がその負担に備える為の原資を用意しておくことが不可欠である。しかし、現状ではそのような備えは全く見えない。元の民営化法ではユニバーサルサービスを維持する為の基金を設けることになっていた。当初1兆円の規模だったのを我々が竹中平蔵氏に厳しく指摘して2兆円にさせた経緯がある。しかしこれも改正民営化法では廃止になってしまった。従ってユニバーサルサービスを続けていく為の担保は何もない状況である。金融2社の株式が売却され、日本郵政の力がどんどん弱くなっていくことを考えた時に、ユニバーサルサービスの為の基金を作り、そこに売却益の一部を積んでおくことを実行しない限り、ユニバーサルサービスを続けていくのは難しいだろう。ところがそういう議論は現在全く行われていない。このままどんどん既定路線で進んでいったら、金融のユニバーサルサービスは維持されなくなる。そればかりか地方の郵便局の存立そのものにも関わる話になってくるのに、しっかりと枠組みを作り直さなければいけないという声が会社からも局長会からも政治の場からも出てこない。まさに危機的な状況にあると思う。

     郵政民営化に反対して小泉、竹中両氏と厳しく対立した十数年前から、郵政民営化を強行するとこういうことになると私が言い続けてきた通りの状況が今まさに表れてきている。現状を局長会をはじめ、郵政関係者や地方自治体、地域の利用者等がもう一度真剣に捉え直していただいて政治に強く働きかけないと、取り返しのつかない悪い方向に進んでしまう。全国郵便局長会としても与党である自民党をサポートしていれば何とかなると思われているとしたら、とんでもないことである。局長さん達が置かれている状況をよく理解し、その上で再見直し法案を出そうということになってきて然るべきだが、全くそういう動きが見られない。動きがないのならば、局長会そのものがもう一度しっかり状況を掌握して、そのことを政治に強く働きかけていく時ではないかと思う。これは郵便局だけの課題ではなく、地方で生活をしている人達の生活を守ることであり、また地域社会と日本の国土、国益を守ることにつながってくる大きな課題であり、高度な政治判断が求められているのである。