議会政治の危機
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先の大阪市長選挙・大阪府知事選挙で橋下徹氏、松井一郎氏のコンビが圧勝した。橋下氏の個性的かつ独特のパフォーマンスが大阪の市民に受け入れられたことが大きいと思うが、各政党が推薦した人達は全く歯が立たなかった。このことは政党の信頼が失われてきていることを象徴的に表していると思う。政党がもっとしっかりしていた時代は、地方選挙にしても国政選挙にしても、既存政党の公認なり推薦を受けるということは選挙民に対する一つの信用の裏付けになり、それが当然のことのようになっていた。最近は政党離れが進んできて、支持政党なしの人達が第1党の支持者を遥かに上回る状況が続いている。これは政党政治の最大の危機であり、このまま行くと政党政治が終焉を迎える可能性も出てきていると思う。非常に恐ろしいことである。
政党は何の為にあるのかというと、こういう社会を作りたい、こういう国を作りたいという理想を持った人達が集まって、その理想を実現する為に作られてきたのであり、その政党が自分達の目的を達成する為には議会を通じて実現を図るということがずっと定着してきた。議会は言ってみれば代議政治、国民が自分達の代表を選んで、その代表に政治を委ねることによって自分達の考えを実現していく。また政党の掲げている理念や政策に共鳴をした人達が政党に投票し、政党を育ててきた。
政党離れがどんどん進んでいくと、最終的には代議政治の否定になってくる。つまり代議政治は何の意味もない、政党は自分達の考え方を実現してくれる可能性はないのだと、政党に見切りをつけるという状況が生まれてくる。これは結果的に議会政治の形骸化を招き、議会政治が全く国民と遊離したところでただ動いているということになって、益々議会政治が形骸化してくる。
第二次世界大戦の前に軍部が力を持って台頭し、その軍部の力を抑えるのは政治の役割だったが、政党が全く機能を失ってしまい、政治が軍部の暴走を抑えることができなくなってしまった。結局、政党が自ら解散し大政翼賛会という大きな一つの政治勢力にまとまってしまった。その大政翼賛会がズルズル引きずられて戦争へと向かってしまった。それと似たような状況が生まれる可能性が極めて大きくなってきたように感じる。
経済も財政も悪化していく中で、将来に対する不安が益々大きくなってきている。今、政府与党は社会保障と税の一体改革を推し進めようとしているが、国民からすれば民意を十分踏まえてやっているようには見えない。野田政権は特に財務省主導政権であり、消費税の増税を決めることを最優先の課題に位置付けている。財政健全化はもちろん大事だと思うけれど、国民生活の為に財政はあるのであって、財政健全化の為に国民生活が犠牲になってよいということではない。こういうことを見ても、益々現政権に対する国民の信頼はなくなってきている。また一方で、野党第一党の自民党にしても民主党を批判するのならば、自民党はこういう国や社会を作ろうとしているのだという将来像を明確に示していかなければ、国民からの期待が大きくなるはずはない。
小泉元首相が竹中平蔵とともに構造改革を進めたという点で、小泉政治の性格ははっきりしていたが、私は小泉・竹中政策が決して成功したとは思っていない。日本の国力はどんどん低下する一方で、国民生活は益々苦しくなり、国際的な立場も益々弱まっている。小泉・竹中政治は日本や国民にとって悪い結果だけを残してしまった。ところが自民党は未だにその流れを継承している。また、小泉・竹中路線を継承する自民党に代わって新たな政権を作ってほしいとの国民の期待感から政権交代が行われたのに、民主党がどんどん小泉・竹中路線に近寄っていっている。対米従属路線、官僚主導路線、更に大企業がすべて悪いとは言えないが、あまりにも大企業の利益優先で中小零細企業を軽視したような政策が目立っている。自民党も民主党も頼りにならならい、かといってそれに代わる政党が大きな支持を得ているかというと決してそうではない。このまま行くと政党政治が終わってしまう。政党政治が終わるということは、議会政治が否定されることに他ならない。
橋下氏も名古屋市の河村たかし市長も同じだが、郵政選挙で成功した小泉元首相に倣い、一つのテーマを決めて住民投票的な選挙をやる。このように大事なことはすべて住民投票、国民投票で決めましょうというのは代議政治の否定であり、直接民主政治に返る道につながっていく。過去の歴史を振り返ってみても、直接民主政治で成功した例は少なく、独裁政治を生み出す危険性がある。世論を巧みに操作して、自分の独裁的な立場を強めて強力な政権を作るというのはヒトラーやムッソリーニによって既に実証されている。今、政治も経済も社会もすべてが混迷している状況の中で、誰か強力なリーダーシップを持った人が出てきて思い切ったことをやってほしいという期待感が確かにあるが、そこをうまく捉えて独裁的な人が出てくるのは非常に恐いことである。
歴史上有名な独裁者も最初は自分の夢や理想も持っていたと思うが、一旦独裁的な立場に立つと国民を犠牲にして自己保身を考えるようになり、最後には国民の為にならない政治をやってしまい、惨めな結末を迎えることになる。その反省の上に長い期間を経て現在の代議政治、議会政治が生まれてきたはずである。今は議会制民主政治が一番優れた政治システムであるとの合意があるから、各国ともそういう形をとっている。議会制民主政治は独裁政治にはなりにくい。しかし、その代わりにそれを動かしていく為の手間と暇がかかる。国民からすると非常にまどろっこしいとの思いはあるけれど、間違いが少ない。完全なものではないけれど、間違いが少ないから多くの国々が議会制民主政治を続けてきたのだと思う。
一番大事なことはそれを形骸化させないことである。その為にはリーダーたらんとする人が時代の先を見る力、過去の歴史をよく勉強して将来に対する予見力、先見力を持つことが非常に大事だと思う。もう一つは、政党とは本来どういう役割を果たすべきなのか、もう一度既存政党の人達が原点に返ってよく考え、きちっとした理念、政策を表に出して実行していくことである。更に政党によい人材を集めることも重要である。小選挙区比例代表並立制の導入以来、政治家の質が低下してきていることは否めない。もちろん中には素晴らしい人もいるが、やはり一人一人の国会議員がもっともっと勉強して、政党に所属している議員の質がもっとよくなってくれば、政党に対する信頼も自ずから戻ってくるだろう。
今、橋下人気に便乗したいという流れが出てきている。既存政党が橋下人気の中でうまく連携して、自分達の人気を回復させたいと考えているようであるが、これはあまりにもお粗末と言わざるを得ない。そういう発想を持つこと自体が大きな間違いだと思う。そういう姿を見せることがまた更に政党に対する信頼をなくし、政党政治を終わらせる流れを加速させることになってしまう。
私は本当の日本の危機はどこにあるのかを真剣に考えないと大変なことになりはしないかの思いを益々強めている。政党をはじめ、国会議員や地方議員にも猛省を促したいと思う。
